幽霊を見たいのなら、見せてあげる

戦争や災害時などにデマで人が殺されるという歴史的な話も聞いて育ってきているし、いまはフェイクニュースとかよく聞くから慎重にならなきゃなとおもうし(でもどうやって? 情報の多さにリテラシーが追いつかない)、まことしやかに広がる嘘は、人がどこかでそう信じたいと思っていることの表出でもあるようで、いつだって人間とは切り離せないものみたい。
そのようすが、こんなふうに書いてある。

嘘は炎に似ていることをフェイスは知った。最初は、世話を焼いて養分を与えなければならない。それも、注意深くやさしく。生まれたての炎はかすかな吐息にあおられるが、強すぎると消えてしまう。嘘が根づいて広まり、興奮とともにはぜるようになれば、もはや薪をくべる必要はなくなる。けれども、それはもう、自分ひとりの嘘ではない。ひとたび命と形を得た嘘を、支配することはできないのだ。

年末のお休みに、やっと読めた『嘘の木』。噂にたがわずとても面白かった。
嘘を広めることで木が育ち、その果実を食べることで真実を知ることができるなんて。なんて独特な発想なんだろう! 嘘で育った「真の実」。父の秘密。自殺とされた死の真相。謎の植物。これだけでも、もうわくわくします。

ヴィクトリア朝時代の風俗や雰囲気も魅力的で、そんな時代を背景に、科学的知識に貪欲な女の子が、たったひとりで悪に対して奮闘する、とても骨太な物語。ストーリーも起伏があって見せ場もたくさんあるし、嘘の木の実を食べて垣間見る「真実」の描写もとても映像的でスリリングだし、映画になっても面白そう。

クライマックスでのフェイスはなかなか激しいことをしてみせたりして、そんなところも映画的(ようするにちょっと非現実的)なんだけど、私は、少女から大人になりかけているフェイスが、女であることを最大限に利用する母親を少しずつ理解していく過程と、ふたりの関係が変化していくようすがしっかり描かれているところに好感がもてました。

これは闘いなのよ、フェイス! 女も男たちと同じように、戦場に立っているの。女は武器をもたされていないから、闘っているようには見えない。でも、闘わないと、滅びるだけなの。

冒頭から、おしゃべりで見栄っ張りで薄っぺらな女の人みたいに描かれる母親の印象が、最後には変わるのがここちよいです。この時代も女の人は生きづらそうだけど、ここに登場するいろいろな女性たちの姿を通して、どんな時代も強かに生き抜く術を見つける女性の強さも感じる。

フェイスがつく嘘、フェイスの父親がついた嘘、村の人々がついた嘘。
たくさんのいろんな嘘が出てくるけれど、たぶんどれも、聞いた人が信じたくなるような「何か」をもってる。またははじめから、人々の心のなかに、「もしかしたら」と存在していたことなのかも。嘘って、いい嘘も悪い嘘も、「人が信じたいこと」を指すものなのかもしれないなあ、とおもった。

それ自体が壮大な嘘である、この物語を読みながら。
楽しい。

 

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