心に音を

こんなすんばらしい本が1年も前に出ていたなんて、全然気がついていなくて不覚でした。

「リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ」とは、マレーシア語で「五・七・五・七・七」のこと。なぜここでマレーシアが出てくるのかというと、主人公の沙弥がマレーシアからの帰国子女だからです。2年半ぶりに日本に戻ってきて、中学に編入することになり、周りから浮いてはいけないとビクビクしながら学校生活を始めたばかりの沙弥に、変わり者として有名な先輩が「ギンコウ」へのお誘いをかけてくることから始まる自分探しの物語。


沙弥と佐藤先輩の詠む短歌を中心に、家族の中や学校でおこるちょっとした事件を通じて、沙弥が「自分を表現すること」「自分と相手のありのままを認め合うこと」をつかみとっていく姿が、とにかくさわやかで清々しい。

 

多種多様な価値観をもった、様々な人種の人たちが共存し合っていたマレーシアの大らかさを、懐かしく思い出す沙弥。沙弥の短歌には必ずマレーシア語がひとつ織り込まれるのですが、このマレーシア語が、「日本語として」めっちゃ面白いのです。
例をあげたいところだけど、この作品のなかでは短歌がとても重要なポイントになっていて、もともと31音しかないものをここで引用してしまうのはもったいなくて心苦しいので、ぜひ読んで欲しい。
どの言葉も、日本語のオノマトペとして存在していそうな響きだったり、ずばり日本語とダブルミーニングになっていたりと、マレーシア語、短歌てきにかなり相性がいい言葉だとかんじました。

しかも!
佐藤先輩が短歌を始めたきっかけが、図書室の先生にすすめられた東直子さんの歌ーーー!

一度だけ「好き」と思った一度だけ「死ね」と思った 非常階段

             ――東直子『春原さんのリコーダー』より

あることで挫折して、普通の中学に編入してきた佐藤先輩に、この歌集を渡した学校司書。渡すほうも最高だし、渡されるほうも幸せで最高ですね!
東さんのこの歌とこんなところで再会するなんて!と不意打ちされたような驚きとともに、あ〜こんな仕事ができたら司書冥利につきる...とおもったり、読みながら心の中がとても忙しくなりました(笑)。


短歌、自分でも少しかじっていたことがあるので(東さんと同じ団体にいたことがあるのです)、感想言い合うときの言い方とかも身近に感じたし、ふたりが詠む歌がどんな感じで批評されそうかというのもなんとなくわかります。きっとかなりいい線いくとおもうんです。

そう、この、作品のなかに出てくる歌も、歌単体としてとてもうまいのです。
物語を書いて、そのなかに登場させる歌を作って、しかもその歌はアクセント程度のものではなく、その歌自体がさらに物語を引っ張っていく、というものすごいことがとても器用に行われていることに、本当にびっくりしてしまいました、私は。

中学生はとにかく世界が狭いから、学校と家だけが世界のすべてのような気がしてしまうんだよね...。ほかにも世界は広がっているんだって知ることって、とくに中学生にとってはとても大切な視点で、それに救われることもたくさんあると思う。沙弥と佐藤先輩にとってはそれが短歌で、そんなものに出会えたふたりは、本当によかったねっておもうのでした。

でも、短歌に出合えた。楽器がなくても、ちゃんと心に音を鳴らしてくれる歌があるんだって知った。音楽じゃない、でもわたしはわたしの歌をつくろうと思った。

最後は、ふたりの関係が深まっていく予感、ふたりの人間関係がもっと広く広がっていきそうな予感まで含めて描かれていて、それもすっごくよかった!

 

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